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東京高等裁判所 昭和50年(く)45号 決定 1975年3月31日

少年 B・J(昭三一・三・二八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、申立人作成の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用するが、要するに、窃盗や傷害といつた他人に迷惑をかける非行を犯した少年でも不処分になつている者があるのに、シンナー、ボンドを吸つたという行為しかしていない自分が少年院送致の処分を受けるのは不公平であるというにある。

よつて、按ずるに、少年院送致等の収容処分が適当であるか否かは、非行の有する反社会的危険性の度合に応じて自動的に決定されるものではなく、少年の非行が他人に迷惑をかける種類のものか、どの程度の迷惑をかけたかといつた点のほか、その非行が少年自身の心身、徳性を害する度合、その非行が少年の性格や生活態度に内在する犯罪的危険性のあらわれとみられるかどうか、非行の原因となつた性格や生活態度を矯正するには収容保護の必要があるかどうかといつた観点から、非行および少年に関するあらゆる事情を調査のうえそれらを総合的に判断して個別的に決定されている。

これを本件についてみるに、少年保護事件記録および少年調査記録によると、少年は実父母が健在で両親の愛情を一身に集めて何不自由なく養育されて来たが、中学の二、三年頃からオートバイ窃盗、万引の非行がみられ、高校入学の頃にシンナー遊びを覚え、自転車窃盗の非行があつたほか、高校中退後の昭和四八年九月にはシンナー遊びが原因で試験観察の措置をとられ、昭和四九年一二月五日には、シンナー遊びを発見されて警察官に暴行を加えた非行などにより保護観察処分を受け、本件の処分はその直後である同月一五日と翌五〇年一月二一日のシンナー遊びに基づくものであり、その間、少年は、父母、警察官、調査官、裁判官、保護観察官、保護司らの再三にわたる強い説論があつたにもかかわらず、ついにシンナー遊びの誘惑を断ち切れなかつたことが認められる。

右の事実のほか前記各記録にあらわれた全ての事情に徴すると、少年はシンナー遊びの常習者でその程度は少年自身の心身、徳性を著しく害する程度に達しており、本件各非行が前記のごとく保護観察開始後まもなく行なわれているなど、過去数次にわたる保護的措置が効果を上げなかつたことを考えれば、本件非行は少年自身の性格や生活態度に起因するところが大きいといわざるをえない。そうすると、少年の心身がこれ以上むしばまれるのを防止し、少年が規律ある社会生活に適応して立派な社会人として大成しうるようその性格と生活態度を矯正するためには、少年院の矯正教育にこれをゆだねるのが適当であると解される。少年がこのような事情のもとにある以上、シンナーの吸引という非行しかしていないからといつて中等少年院送致の処分を受けたことが、窃盗や傷害といつた非行をした少年に対する処分に比べて決して重いということはできない。

よつて、原決定には処分の著しい不当はなく本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 東徹 裁判官 石崎四郎 佐藤文哉)

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